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特別プロジェクト
「海の美は、海の痛みを隠す」SIOME 東京藝術大学×香川大学 せとうち ART&SCIENCE
大学美術館
私は全国4か所の海洋調査地に同行し、研究者と共に海を観察し、海藻の採取や仕分けを行いながら、海洋環境問題を“実感”しようとしてきた。しかし、豊かに見える海の印象は最後まで大きく変わらず、海藻が減少している実感も持てないままだった。
この “見た目の美しさが現実を覆い隠す感覚” は、ガチャガチャ(カプセルトイ)が与える体験と驚くほど似ている。外からはワクワクする見た目だが、いざ開けてみると想像とは異なる現実が現れる——期待と現実のギャップ。その構造が、海の表層の美しさと、目に見えない深刻な問題との乖離と重なるように感じた。
本作では、透明カプセルを“海の断面”として提示する。外側からは楽しげなカプセルに見えるが、開けると調査で採取した海底泥、マイクロプラスチック片、消えつつある海藻など、海中に潜む“見えない現実”が現れる仕掛けとなっている。
鑑賞者がカプセルを“期待を抱いて開ける”という行為を通して、海の問題を自分自身の体験として受け取り、表面の美しさの裏側にある深刻な状況と向き合うことを促す作品である。
なお、この作品によって集められた資金は、海洋問題に取り組むNPOに全額寄付される。
SIOME 東京藝術大学×香川大学 せとうち ART&SCIENCE:
アートとサイエンスの力で人々の心を豊かにし、社会の未来をかたちづくる。 東京藝術大学と香川大学は、創造力と分析力を融合させることで、複雑な社会課題に新たな視点からアプローチし、心豊かで持続可能な社会の実現を目指しています。 芸術と科学の出会いから生まれる知と感性の共創によって、瀬戸内海から未来を動かします。
協力:中國正寿(香川大学 瀬戸内圏研究センター 特命助教)
井上裕史
1981年岡山県久米郡生まれ。2007年に東京藝術大学大学院を修了後、組織デザイン事務所を経て株式会社1221を設立し、空間コミュニケーションを軸にデザイン・設計を行っている。2025年4月からは同大学「芸術未来研究場」の特任准教授として、科学とアートの関係に関するプロジェクトを進めている。
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過去の展示作品を アーカイブとして まとめています。

芸術未来研究場は、人が生きる力であるアートを根幹に据え、人類と地球のあるべき姿を探求するための組織として2023年4月に創設されました。閉じた施設としての「研究所」ではなく、様々なプレイヤーが集い、つながり、社会に開かれたアートを実践し、未来を共につくっていく場だから「研究場」と名付けています。
東京藝術大学は、伝統の継承と新しい表現の創造のための教育研究機関であると同時に、アートの未来を常に考え、様々なステークホルダーと共に社会を形づくる主体でもあります。アートの礎である「いまここにないものをイメージする力」は、世界を変え、未来をつくる力です。これまでにも、学部、学科、研究室単位では様々な学外の組織との協働がありましたが、今後は全学横断的にこれを推進していくことで、企業・官公庁・他の教育研究機関との連携を強化し、社会の様々な領域におけるアートの新たな価値や役割を増やしていきます。
また、こうした連携を実践する基盤として、芸術未来研究場では次の6つの領域を設定しました。
[ケア・コミュニケーション]
医療、福祉や地域コミュニティをはじめとするWell-beingな社会づくりにおけるアートの社会的価値を探求します。
[アートDX]
デジタル技術やICT技術を活用した教育研究を推進し、アートの可能性を拡げます。
[クリエイティヴアーカイヴ]
多様化する表現手法に対応した、アートの保存・継承と、新たな創造への活用に関する研究を推進します。
[キュレーション]
対話と協働を通してアートと現代社会との関係性を紡ぎ上げる人材の育成と実践研究を行います。
[芸術教育・リベラルアーツ]
東京藝大における教育のあり方を探究しながら、より幅広い対象に芸術教育を拡げ、地域や年齢、社会的属性に関係なく、誰もが自身の人生の中にアートを感じられる社会づくりを推進します。
[アート×ビジネス]
教育研究成果の社会実装・事業化を推進し、芸術産業の創出・発展に寄与します。
これらが互いに領域の枠を超えて混じり合い、芸術と社会の未来を切り拓く新たなプラットフォーム「芸術未来研究場」が、今ここからはじまります。







